IGLOO DIARY

源にふれろ#4

6/20/03....ホール(シルバーセンター?)で庄司君と即興のライブ(庄司君秘蔵の1920年代のドイツ実験映画を上映しながら映像に音をつける、ということしか分かっていない)をすることになったが、楽屋に井上さんが来て、僕らを威圧するように睨みつけて「ゴムしか来てないぞ」と怒鳴る。

6/26/03....サーカスで綱渡りの練習をしている。テントの中にはむかしの見世物小屋のポスターがベタベタと貼られていて、かつての小屋掛け興業時代を偲ばせる。綱渡りといってもいきなり高い所は無理なので、床にテープを貼って、バランスを取る練習をしている。知らないうちに大野さんが横に居て、「リズムに気をつけて足に集中して」とか「視線を一定に保つようにしないと」とか指導してくれる。かと思うとテントの隅で何か縫い物をしていたりする。僕はテープの上を歩くのは飽きたし、もう高い所で普通に綱渡りをする自信があるので、団長に進言しようと思った。

6/29/03....阿部薫は実は生きていて、騒のオーナーと入れ替わっていたのだということが発表される。そればかりか、阿部薫の復活ライブも行われるという。なぜか招待券(もろパソコンで作ったようなデザインだった)が来たので行くことになる。会場は、出来る限り当時の騒を再現しているという話だが、どう見ても定山渓のホテルのラウンジに似ている。「阿部薫」が登場してサックスを吹くが、それはバリサクだったので非常に驚く。もうアルトでは吹き足らないということか。野太い音が会場を震わせる。

7/2/03....手のひらを黒く塗った女が追いかけてくる。材木をいいかげんに組み合わせただけで出来たような家屋の中で必死で逃げる。女は「モロッコ・リ-」という名である。高所恐怖症なのにボロボロの梯子も平気で昇る。女は手にべったりとついた黒い塗料を僕になすりつけようとしているのだが、その塗料は虫の死骸を粉にして練ったものだ。

7/16/03....僕は中学校を卒業したばかりなのにピアノの才能を認められ、「プロのバンド」に加入することになる。バンドのメンバーはカントさん、悦子さん、春名さん、山根さん、KAYAさん...と、ほぼ山脈ズだが、僕が15才であることが知れると気まずいので、他人の振りをする。KAYAさんの家で車座になって雑談していた時に、手元にあったトイピアノをちょっと弾いたら、悦子さんが背中から抱きついてきて、泣きながら「ああ~やっぱりシブヤ君だ!ほら言った通りでしょう?」と言う。

7/25/03....ひとつのビルを借り切って、小岩さんが焼き鳥屋を始めた。ビルは全く手入れされておらず、前に使っていた会社の事務所などがそのまま放置された状態の各室で焼き鳥を焼いている。なぜ、小岩さんともあろう人が、こんな使いでのある立派なビルをそんな無駄でずさんな商売に使ってしまったのかと、みんな不思議がっている。僕は「yumboのライブに1室を使わせて下さい、とか持ちかければ、小岩さんも目が覚めるに違いない」などと考え、ナツと大野さんと、そしてなぜかさやさんと一緒に交渉に行く。というか、そのような思いに至った時、我々は既に小岩ビルの1室で相談していたのだが。ビルの中の様子は、先程ナツがビデオテープでくまなくチェックしていたので、ナツを案内役にして歩き回る。しかし肝心の小岩さんが見つからない。「何処かの室で毛布を畳んでいる」という漠然とした情報だけがある。

8/2/03....「蜥蜴の迷宮」という本屋が吉成にできたというので、伸夫に「行こう」と誘われるが、腰が重い。なんでも、八重洲の元店長が奇跡的に復活して作ったのだという。三階建てぐらいの高さの壮大な鉄柵の門があり、手で押して開く。植野さんが一緒に居て、なぜか伸夫と異常に仲良くなっている。二人は本屋の地下にある健康ランドに興味があるらしく、どんどん行ってしまう。僕は独りになりたくなかったので、ロビーに据え付けてあった旧式のマックで山路さんにメールを送ろうと思った。起動させると、画面にはテレビのように映像が映し出された。包丁を逆手に持った金髪の女が凄い形相で男を追いかけている。そういう壁紙なのだ。男の焦燥感に満ちた汗だくの顔が大写しになり、男は一言「誰も僕がこうして死んでいくことを知らないのです」という意味の言葉を英語で言った。その声が建物内に大音響となって鳴り響き、僕は恐ろしくなった。よく見るとマックは木で出来ていて、勝手に後ろを向いたかと思うと、機械の背中から包丁の反射と思われる光が、しゅっ、しゅっ、と音をたてて漏れ出ていた。

8/6/03....母が暴力を振るうので困る、と兄が電話してくる。痴呆という年でもないだろう? と言うと、兄は甲高い声で「おかん104才だぞ!」と叫んだ。

8/9/03....合板で仕切られた10m×10mぐらいのスペースを割り当てられて、「近世の予感」という喫茶店を経営することになる。しかし水道もガスも電気も通っていないので不安。僕はカウンターの内側に居るが、その向こう側は畳になっていて、見知らぬ半裸のおばさんが2人(姉妹らしい)、自分の家のように振る舞っている。何かの果物の皮を干して作ったという縄を畳いっぱいに広げて編んでいる。それは非凡な縄であり、神聖でさえある。僕はカウンターの中の裏口を見つけて、そこから梯子を登って2階の部屋へ行くことができた。そこには、おばさん達がこつこつと編んだ縄が綺麗に箱詰めされて整然と積み上げられていた。僕は「この在庫のチェックをしていれば何となく一日が潰れるかな」などと考える。

8/10/03....8畳ぐらいの洋間の食卓に座って、台所で料理をしている数人の女の人たちを見ている。その人たちはキャベツでアスパラを巻いたものをひたすら量産していて、半透明でぐにゃぐにゃしていて不味そうだ。肘に小さな鼠が噛み付き、激痛が走る。振払っても、牙が食い込んでいてなかなか取れない。やっと牙が抜けて放り投げても、また突進してきて噛み付いてくる。それを幾度となく繰り返す。鼠を相手にじたばたしていたら、いつの間にか中崎さんが隣に座ってニコニコしていて、「それ、暴れると余計に牙が食い込みますよ」と言われる。

8/14/03....自室で座ってクラシック音楽を聴いていたら視線を感じたので見ると、戸口に中学生ぐらいの女の子が立っている。ホラー映画に出てくる、悪魔に取り憑かれた少女のようにやつれていて無気味なので直視できないでいると、彼女が「あなたは....」と話し始める。僕と彼女はけっこう距離が離れているのに、その声は耳元で話しているように生々しい。「あなたはもっとしっかりしなくてはいけませんよ。私に出来ることがあれば協力しますからね」と、彼女は言う。何か反論しようと思って彼女を見ると、声はするのに口が動いていない。テレパシーだ、と思う。と同時に、女の子は兄にすり変わっていて、親し気に部屋に入ってきて僕のステレオをいじったりする。僕は、どうにか兄が女の子に戻らないかと念を送ってみたりするが変化はない。

8/25/03....アパートを一軒借り切って生活している。実際に使っているのは一室だけだが、とても広い。上の方の階にはホームレスがいつの間にか住みついているが害は何もないので黙認している。部屋にyumbo全員が集まり練習しようとしていると、上の階から手紙が届き、ナツが声に出して読む。「ヘリコプターを作りました。すぐ乗れます」。それを聞いて、はるちゃんと大野さんが「乗りたい乗りたい」と言う。しかし何か間違いがあっては困るので、ひとまず僕が様子を見に行くことにする。案内人としてやって来た人は全身が毛皮に覆われていて、すごく猫っぽい。「ハラなんじゃないか?」と思いつつ、螺旋階段を導かれるまま昇って行くと、やっぱり!案内人はいつの間にか四つん這いになり(ずいぶん大きいが)ハラの姿に戻っていた。

8/28/03....宮下区の団地の界隈をバイクで行き来する。バイクの運転は意外と簡単で、今後こうやって移動できるのかと思うと楽しくてしょうがない。幼稚園の向こうのカッチの家に行って驚かせようと思い、見覚えのある裏道を通って行く。しかしカッチの家は無くなっていて、巨大な箱形の建物になっている。建物の側面には「トンボ」という大きな文字。なぜか恐ろし気な感じを受けたので、引き返して金子さんの家を訪ねる。金子さんは現在マヘルに加入しているという。全然知らなかった。金子さんは沢山の楽器を蒐集しており、昔から工藤さんがよく借りに来たのだという。そのうちメンバーとして正式に加入したが、金子さんは実名を出したくなかったので、come(こめ)という名で参加しているらしいが、そんなメンバーは聞いたこともないので訝しく思っていると、「これこれ」と言って、金子さんが自分の参加しているマヘルのLPやCDを持ってきてカーペットの上に広げた。驚くほどの量である。しかも、どれも全く知らなかった作品ばかり。「冬里はね、他のメンバーに知られないようにこうやって裏のマヘルもやってきたんだよ」と金子さんは説明した。黄色の地に崩壊する果実が描かれたジャケットのCDが特に気になったのでかけてもらうと、震えが来るほど素晴らしい楽曲が飛び出してきた。薪のように集められた木管のアンサンブルとドラムだけをバックに、工藤さんが「こんなに一生懸命走っているのに、どうして誰も分かってくれないんだい」などと歌っている。その曲の演奏は、すべて金子さんと工藤さんだけで行っているという。

9/1/03....誰でも無料で好きな科目を受講できる大学が長沼の商店街の中にあるというので、工藤さんと関さんを案内することになる。僕はその大学の場所を全く知らないが、地元なので勘で歩いているうちに見つかるだろうとたかをくくっている。しかし商店街は、僕が住んでいた頃とは随分様変わりしており、昔よりも随分荒れてしまっている。道路も狭くなり、進めば進むほど板きれやコンクリートの塊などによって仕切られ、さながら迷路のようだ。僕は大学へ辿り着く確信のないまま、慣れた風を装って二人を先導して歩く。僕が困り始めた頃、気がつくと関さんは迷路の商店街のなかにある雑貨屋の店主になってしまっており、「バリヤー」という看板を掲げたその店の中から腕組みをして僕と工藤さんを見ている。口からは黄色い牙が生えており、鳥肌が立つほど恐ろしい。僕は恐ろしさのあまり身体が震えてきて、思わず工藤さんの腕にしがみついてしまった。すると工藤さんは笑って、まあまあという手つきで「僕はこういうのは慣れてるから」と言って、先へずんずん歩いて行ってしまう。(このままだと関さんとはぐれてしまうな)と思ったが、ともかく関さんはあんなになってしまったので、諦めて工藤さんについて行くと、人ひとり通るのがやっとの狭さだった商店街の一角に、とつぜん開けた広場があり、その真ん中に木造の大きな建物があった。これはホテルで、工藤さんと関さんはここに滞在しているというので「なーんだ、そうだったのか」と思う。「もう3ヶ月も泊まってるから、家みたいなもんなんですよ」と工藤さんは言い、エントランスを抜けると普通の民家のような感じで三和土があって、そこで靴を脱ぐ。本当のぼろホテルなので、床は全く掃除されていなくて、廊下を歩いていると何やらべたべたする。たいへん不潔で不愉快だが、工藤さんたちはこういう場所の方が風情があって好きなのかな、などと思う。僕もいつしかそのホテルに滞在していて、ずいぶん長い時間を過ごす。番頭は老婆で、「小谷さず」という名だ。さずは目が見えないので、工藤さんを自分の息子だと思っている。それで工藤さんは、さずのために歌を歌って聞かせたりしているうちに、このホテルから離れられなくなってしまったらしい。工藤さんはホテルのロビーから通じている地下街でアコースティックギターを買い、ストリートシンガーの真似をして地下街の床に座り込んでギターを弾きながら歌うという。僕は、手で地面を叩くと、ある法則によって音階が響くのを発見していたので、そうして演奏に参加することにする。工藤さんは「ここで歌ってもね、さずさんには聴こえるから」と言ったかと思うと、凄い勢いでギターをかき鳴らした。顔を真っ赤にして、身体を小刻みに揺り動かしながらギターを鳴らす工藤さんを見て、すぐ近くに立って見ていた子供が「お父さんが居る」と言う。その声は、僕の子供の頃の声をテープに録ったものだ。ということは、その子供は役者で、工藤さんが仕込んだのだ、と瞬時に思う。遠くの壁に四角い穴が開いていて、その中からこちらを見ている関さんの笑顔が見えた。もう牙は無かった。押し寄せる幸福感。

9/2/03....草むらのなかに隠れていたら、どうやって感知するのか、一直線にカマキリが集まってくる。そのなかの一匹を捕まえることができれば勝ち、というゲームをしている。カマキリは、捕らえようと手を伸ばすと一斉に舞い上がって消えてしまうので、どうしても捕まえることができない。

9/7/03....猿に対する恐怖心が徐々に薄れ、行動を共にしている。むかし観た「猿の惑星」の主人公のような気分になっている。最も賢い猿は「テリン」といって、僕とホテルを経営することになる。古い旅館を買い取って、ほとんど手を加えずにオープンしたので、どこもかしこも黴臭く、廊下には木っ端とかゴミが散乱している。また、スタッフとして働いている猿がそこら中に構わず排泄をするので辟易する。床から飛び出した釘とかへばりついたボンド、水たまりのような小便を避けながら歩くので酷くストレスがたまり、やりきれなくなる。もしかすると、とんでもない事態に巻き込まれたのかもしれないと、暗澹とした気分になっていたら、テリンがやってきて、「ここは比較的清潔だから」と、いつの間に増築したのかチリひとつ落ちていない瀟洒なカフェテリアに通される。テリンは心から申し訳なさそうな顔をして座っている。僕にはその卑屈な態度も気に入らない。他の猿は裸だが、テリンは支配人なのでスーツを着ている。それも何か嫌味だ。

9/11/03....家の風呂場をナツが改造した。ガラス戸を取っ払って絨毯を敷いて、全くの部屋のようにしてしまった。バスタブと洗面台は普通に残っていて、バスタブの接している壁に水色のドアがあり、その向こうは念願のシャワー室である。ナツの言い分では「シャワーが浴びられるのだから、もはやバスタブはそれほど使わない」のだそうだ。そうかなあ?と思いながら、泰然と風呂場の床で雑誌など読んでいるナツを苦々しく見下ろしていると、とつぜんシャワー室のドアが開き、須藤さんが出てくる。思わず「お疲れ様です」と声をかけると、須藤さんはおどけたようにシャワー室の中を指差しながら「澁谷さん、この中すごいっすよ。大浴場みたいになってますよ」と言う。なぜかそれでよけい腹が立ってくる。テレビのある部屋の方から板東英二の声が聞こえてきてうるさいので、いらいらした勢いで部屋に飛び込むと、春名さんと智恵子さんが卓袱台で御飯を食べている。「あっそうか、春名さんを喜ばせるために改造したんだね」と思った。

9/13/03....お粥には軽い毒がある。僕はそれを知らずに30年間食べていた(しかも僕が『パン』と呼んでいたものが実はお粥であったという事実にも驚愕したが)。軽い毒なので、30年喰ったぐらいでは異変は起きない。ということがある本に書いてあり、それを小柳が「中国女」に出てくる女優のように朗読してくれる。いつも半開きになったドアの向こうがアパートの共同の炊事場になっていて、そういうアパートに暮らした経験が無いのでとても興味がある。小柳が言うには、炊事場には「互いに分かり合うために」たくさんの本が持ち寄られて置いてあるという。「梅崎春生なら全部あると思うよお」と言われ興奮する。/僕は運動会で大怪我をしてしまった。包帯を巻いた両腕が灼けるように痛む。コーヒーが飲みたいと思って、場当たり的に巨大モールの中を適当に歩いていると、螺旋状に作られたエスカレーターの中心の吹き抜けを利用したスペース(床がガラスなので中空に浮いているように見える)にカフェがあって、大きな丸いテーブルにナツ、森君、小柳それに知らない人が2、3人同席していた。その見知らぬ2、3人の男女は高そうな服を着た落ち着いた若者たちで、彼等はどういう事情からかナツ、森君、小柳にプレッシャーをかけているらしかった。僕は直感的に「彼等は僕を脅威に思うに違いない」と確信したので、力いっぱいどんどん突進していく。案の定、男女の中の一人が僕を見て中腰になって硬直したので、僕は勢いをつけて腕の包帯をくるくるとほどいて見せる。包帯の下から鮮血がとび散って、彼等のテーブルを赤く染めた。この騒ぎによってナツ、森君、小柳は解放され、モールの中を悠然と移動する一団となる。エスカレーターが唐突に切れていて、森君が「おっとっと」というように先頭で立ち止まる。その先は土と雑草があるばかりで、どうも既に屋外に出ていたらしい。遠くには汚い小川があって、木で出来た船が水の淀みのなかでゆらゆらと繋がれて揺れている。僕は無性にモールの中へ戻りたいと思っているが、森君が「船に乗りたい」と言うので、僕らはおっかなびっくり草の上を歩いて小川へ近づいてみる。ところが、ある地点を境に、進もうとすると眩しい閃光がカメラのフラッシュのようにやって来て、思うように進むことができない。自分が進むと閃光に取り巻かれるので恐ろしくなり身を引くが、他の誰かがその地点を通過しようとするだけで僕にも閃光は襲いかかってくるので、しきりに「やめろやめろ」と言う。真っ白い閃光の中で慌てていると、誰かに手を握られたので、背中に冷水を浴びせられたような気持ちになる。きっと恐ろしい顔をした何者かに違いないと思い、手の主の顔を見ないようにして必死でもがいていると、握られていた手の力が弱まり、スーッと体が前へ押し出された。

9/20/03....薄い板で仕切られた個室(と言っても三方向にしか壁は無い)を割り当てられ、そこに敷かれた煎餅布団に横になる。その個室はだだっぴろい学校の体育館のようなスペースの一角に設置してあるらしく、寝ていると周りから女学生の話し声とか、バレーボ-ルが床に擦れる音などが聴こえてくる。アマチュアバンドの練習のような音が鳴り響いたので、知り合いかと思って個室を出ようとすると、巨大な緑色のバッタのようなものが立ち塞がる。2mぐらいの背丈があり、口から泡を吹いている。バッタを刺激しないように静かに布団の上に座り直すが、バッタは僕が個室から出ないように見張っているらしく、立ち去ろうとはしない。その間も、外に居る人の話し声は普通に聴こえるので、「みんな気持ち悪くないのかなあ」と思った。

9/23/03....秋田犬を散歩させている。田舎道だが、長沼ではなく、なんとなく海が近い感じがする。犬はつぶらな瞳で実に愛らしく、こんな犬を飼うのが夢だったんだよなあと思っている。通りがかった民家の中から、子供の激しい泣き声が聞こえて、犬がどうしても気になるようなのでなんとなく犬に引っ張られるようにして民家の裏手へ廻ってみると、その家の壁は片面がすべてガラス張りになっていて、居間の様子が丸見えになっている。子供の泣き声はその居間にある古い茶箪笥あたりから聴こえてくる。いつの間にか犬は居間の中に入っていて、僕は外からガラス越しに犬の様子を見ている。犬は床を土のように掘り始める。どうやら、茶箪笥の真下に子供が埋まっているらしい。やがて茶箪笥の下の床が掘られたあたりが木のうろのようにポッカリと空いて、犬はそのうろの中に自ら滑り込んだ。どうするのかと思って見ていると、犬はうろの中で胎児のように丸くなって、「ウウウウウウー!!!」と物凄い声を立てた。どうやら、自分が茶箪笥の下のうろの中で踏ん張ることによって茶箪笥を倒し、子供を助け出そうとしているようだ。犬は渾身の力を振り絞って茶箪笥を持ち上げようと、顔を真っ赤にして丸くなったまま踏ん張る。すると犬の顔や身体はどんどん病的に変型して、裸の人間になってしまう。見ている僕の身体も、知らず知らず力が入る。ものすごい衝撃と痛みがあり、茶箪笥が倒れたという実感と共に、その瞬間に僕が犬になっていて、茶箪笥の下敷きになって死んでいる、という感覚がある。

9/28/03....工藤さんが側溝の汚水に手を入れてかき回すようにしている。濁って泡立った汚水はブクブクと音を立てている。あまりに汚いので目をそむけていると、工藤さんが「見てて見てて。女の子が生まれるから」と言う。そんな汚水の中から子供が引っ張り出されるのを見るのは嫌だと思うが、どうしても目が離せなくなる。しかしいつまで経っても子供が生まれる気配は無く、工藤さんはいくつもの肉片を汚水の中から取り出してコンクリートの上に並べている。

10/1/03....田舎の公民館みたいな建物の中の図書室で、窓ガラスにヤスリをかける作業を2、3人でしている。一緒に働いているのは見知らぬ男たちである。真っ赤なTシャツを来ている男は、作業しながら「俺は最期は血まみれになって死ぬと思うから、ずっと赤いシャツしか着ないんだ」と語った。


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